
認知症の金融資産対策
少子高齢化は、今の日本が抱える大きな問題のひとつです。
しかし、少子高齢化と一口に言っても、その中には様々な問題が含まれています。
例えば、社会保障費の増加、年金資産の枯渇、経済の衰退、空き家問題など、挙げるとキリがありません。
その中のひとつの問題として、認知症の方の金融資産をどう管理しているか、ということがあります。
高齢者が増えると必ず増えるのが認知症。本日は認知症と金融資産というテーマを取り上げてみます。
今、身近にご高齢の方がいらっしゃる方はもちろん、今後自分達の親が高齢になったときに迎える問題として読んでいただけたら幸いです。
■高齢者に偏る金融資産
現在日本人の金融資産は1,800兆円にも及ぶと言われていますが、その金融資産のうち、65%は60歳以上の方が保有しています。
60歳と言うと、定年を迎えて大きな退職金をもらっている方もいらっしゃいますし、着実に預貯金や株式投資などで資産を築いてきた方も含まれます。
とにかく、日本の金融資産は上の世代の方に大きく偏って保有されているという特徴があります。
高齢者が資産を蓄えてちょっとずつ切り崩しながら生活をしていくのは当たり前の話ではありますが、国全体の経済という観点から考えるとこれはあまり良いことではありません。
基本的に、高齢な方はあまり大きな消費活動はしないため、世の中にお金が循環する量が減っていってしまうことになります。そしてお金の循環が滞るということは、経済が停滞してしまうということになります。
■認知症の方の金融資産
そして、この高齢化社会で今後大きな問題になってくると予想されているのが、認知症の方が持っている金融資産についてです。
2015年時点で65歳以上の認知症患者数は推計で約520万人とされていますが、高齢化が進む30年には最大で830万人に増え、総人口の7%を占めると予測されています。
この方々が持っている金融資産が、認知症により本人がお金の管理ができなくなるので完全に凍結されて動かせなくなる可能性があります。
金融機関では、本人の意思確認ができなければ預金の引き出しや株式の売買などに応じることはできません。そのため、認知症の方の金融資産は相続が発生するまで凍結状態になり動かせなくなってしまいます。
先日の日系新聞でも公表されていましたが、第一生命経済研究所の試算によると、認知症の方の金融資産の保有額は2017年度時点で約143兆円。そして2030年度には215兆円まで膨らむとされています。
これは、日本のGDPの4割にも匹敵するお金を認知症の方が保有することになり、そのお金が凍結されて世の中に出回らなくなるので、日本経済が衰退するひとつの原因にもなりかねません。
さらには家族の方にとっても大きなお金が凍結されることは、いざというときでもお金が使えないので思わぬ負担になる可能性があります。
■認知症対策は健康なうちから早めに行う
これらの問題を解決するためには、認知症になる前、もしくはなったとしても軽い状態のうちに対策をとっておくことが重要です。
完全に認知症になってしまってからでは身動きが取れなくなってしまうので、とにかく健康なうちから早め早めに対策を考えるようにしましょう。
代表的な対策としては、以下のようなものがあります。
・事前に後見人を定め、本人の預貯金からお金を動かせるようにしておく
(成年後見)
・本人と家族で資産活用についてあらかじめ取り決めをしておく
(家族信託)
・生きているうちに下の世代に資産を移転しておく
(生前贈与)
家族が認知症になることを前提として対策をすることは、本人の気持ち的にも困難かもしれませんが、活用できる制度はだんだんと増えてきています。
このような問題が日本全体の課題になりつつあることを知り、いつかは自分の身にも振りかかる事として対策を考えてみると良いかもしれません。